
コザクラインコは、その鮮やかな羽色と「ラブバード」と呼ばれるほどの愛情深さで私たちを魅了してやみません。しかし、アフリカのナミビアという乾燥した暖かい地域をルーツに持つ彼らにとって、四季の変化が激しく、多湿な日本の環境は、まさに「サバイバル」と言っても過言ではない過酷な環境です。
「適温って具体的に何度なの?」「留守番中にエアコンが切れたらどうしよう」「冬の夜、寒さで凍えてしまわないか心配…」
こんな不安を抱えながら、毎日温度計とにらめっこしていませんか?実は、私自身も初めてずんだをお迎えした当初は、少しの温度変化にも過敏になり、夜中に何度も起きてカゴの中を確認するような日々を過ごしていました。ネット上には「寒さに強い」という意見もあれば「弱い」という意見もあり、何が正解なのか分からずに混乱してしまうこともありますよね。
この記事では、私が長年の飼育経験と数多くの失敗から学んだ、コザクラインコを健康に長生きさせるための「温度管理の決定版」を、季節やライフステージごとに詳しく解説します。教科書的な数値だけでなく、実際の生活に即したリアルな対策をお伝えしますので、ぜひ愛鳥さんの快適な環境づくりの参考にしてください。
記事のポイント
- 雛から成鳥、老鳥まで、ライフステージごとの詳細な適温基準
- エアコン設定の落とし穴と、夏場の熱中症を防ぐ鉄壁の守り方
- 電気代を抑えつつ保温効率を最大化する、冬のケージレイアウト術
- 発情や体調不良など、状況に応じた温度コントロールの応用テクニック
コザクラインコの適温を守る季節別管理

コザクラインコの温度管理において最も重要なのは、「温度を一定に保つこと」ではありません。季節の変化、鳥の年齢、そしてその日の体調に合わせて、柔軟に環境を整えてあげる「観察力」こそが鍵となります。ここでは、日本の四季それぞれの特徴に合わせた、具体的かつ実践的な管理手法を深掘りしていきます。
冬の寒さ対策と限界温度
コザクラインコの飼い主さんが一年で最も神経を使うのが、冬の寒さ対策ではないでしょうか。原産地のアフリカ南西部は、日中は暑くても夜間は冷え込むことがあるため、彼らはある程度の寒暖差には適応できる能力を持っています。しかし、日本の冬のように「一日中寒い」状態が続くことは、彼らの体力を確実に奪っていきます。
成鳥の適温「20℃〜25℃」の真実
一般的に、健康な成鳥の適温は20℃〜25℃とされています。これは、鳥が羽毛を少し膨らませたり畳んだりするだけで体温調節が可能で、無駄なエネルギーを使わずに済む「熱中性圏(Thermoneutral Zone)」と呼ばれる範囲です。しかし、これはあくまで「目安」に過ぎません。
我が家でも経験がありますが、同じ20℃でも、日向の20℃と隙間風が入る窓際の20℃では、体感温度が全く異なります。もし愛鳥が、羽をふっくらと膨らませて(膨羽)、顔を背中に埋めてじっとしているなら、それは「寒い!」という明確なサインです。このサインが出ている時は、温度計の数値が25℃を指していたとしても、その子にとっては寒いのです。すぐにヒーターの設定温度を上げてください。
生存限界とリスク管理
「うちはスパルタだから暖房なしでも元気だよ」という意見を耳にすることがあるかもしれません。確かに、徐々に寒さに慣らしていけば、10℃前後でも越冬できる個体は存在します。しかし、それは「ギリギリ死なない」というレベルの話であり、常に寒さと戦ってエネルギーを消耗している状態です。免疫力が低下し、カビ(真菌)や細菌による感染症にかかりやすくなるリスクと隣り合わせであることを忘れてはいけません。
低温による具体的なリスク
- 消化機能の低下: 寒さで内臓の動きが鈍り、食べたものを消化できなくなる。
- 免疫力の低下: 体温維持に全エネルギーを使うため、病気への抵抗力が落ちる。
- 落鳥(突然死): 特に明け方の急激な冷え込みで、体力が尽きてしまう。
最強の布陣:エアコン+ペットヒーター

私が推奨する冬の基本装備は、「エアコンで部屋全体のベース温度を20℃以上に保ち、ケージ専用のペットヒーターでスポット的に25℃付近を作る」という二段構えです。エアコンだけでは夜間の冷え込みに対応しきれませんし、ペットヒーターだけではケージの外に出た瞬間に温度差でショックを受けてしまいます。
特にサーモスタット(温度調節器)は必須アイテムです。ヒーターにつなぐことで、設定温度になったら自動でOFF、下がったらONにしてくれるので、「暑すぎ」による事故も防げます。
夏のエアコン設定と熱中症予防
近年、日本の夏は亜熱帯化しており、コザクラインコにとっても危険な季節となっています。気象庁のデータを見ても、猛暑日の日数は年々増加傾向にあり、もはやエアコンなしでの飼育は虐待に近いと言えるでしょう。(出典:気象庁『大都市における猛暑日日数の長期変化傾向』)
「人間+1℃」が安全圏の目安

夏場のエアコン設定で悩むのが、「人間が快適だと鳥には寒すぎるのでは?」という問題です。体が小さいインコは、冷気に対して人間以上に敏感です。私が実践している黄金ルールは、「人間が少し汗ばむか、快適と感じる温度+1℃」程度の設定です。
具体的には、エアコンの設定を27℃〜28℃にし、サーキュレーターや扇風機を使って部屋の空気を攪拌(かくはん)します。ここで重要なのは、エアコンのリモコン設定ではなく、「ケージの設置場所にある温度計の数値」を信じること。冷たい空気は下に溜まる性質があるため、床に近い位置にケージを置いている場合、人間が立っている位置より2℃〜3℃も低いことがあるのです。
絶対に見逃してはいけない熱中症サイン
インコは汗をかけません。体温が上がりすぎると、口を開けて「ハァハァ」と荒い呼吸(開口呼吸)をしたり、翼を体から浮かせて「ワキ」を見せるポーズ(ワキ開き)をとって、必死に熱を逃がそうとします。
このサインは「暑いなぁ」というレベルではなく、「もう無理、助けて!」という緊急事態の合図です。これを見たら、即座にエアコンの設定を下げるか、保冷剤をタオルに包んでケージの上に置くなどして、急速に冷却する必要があります。処置が遅れると、脳にダメージが残り、最悪の場合は数時間で命を落としてしまいます。
夏場の放鳥タイムの注意点
エアコンが効いた涼しい部屋から、廊下や別の部屋へ飛び出した瞬間、猛烈な熱気にさらされることがあります。この急激な温度変化も体に大きな負担をかけます。放鳥する際は、部屋のドアを閉め、移動範囲の温度差をなくすように心がけましょう。
雛に必要な30℃の保温環境

ペットショップで愛くるしいコザクラインコの雛をお迎えしたその日から、温度管理との戦いは始まります。羽毛が生え揃っていない雛(わたわたの状態)や、一人餌に切り替わる前の幼鳥にとって、寒さは即ち「死」を意味します。
なぜ「30℃」なのか?その生理学的理由
親鳥の羽の下の温度は約40℃〜42℃です。巣の中の雛たちは、親鳥の体温と兄弟たちの体温でお互いを温め合っています。単独で飼育される雛にとって、室温25℃は極寒の世界なのです。
体温が下がると、雛の内臓機能、特に消化管の働きがストップします。すると、そのう(首の食道の一部)に溜まった餌が消化されずに腐敗し、「食滞(しょくたい)」という病気を引き起こします。食滞は進行が早く、一度なると回復が難しいため、予防が最大の治療となります。その予防策こそが、常に28℃〜30℃をキープすることなのです。
プラスチックケースという「保育器」
雛の飼育に、大人用の金網ケージを使ってはいけません。通気性が良すぎて、保温電球を使っても熱が逃げてしまうからです。私は必ず「プラスチックケース(飼育ケース)」を使用しています。
プラケースの中に床材(ウッドチップやキッチンペーパー)を敷き詰め、上から保温電球を照射するか、底面にパネルヒーターを敷いて(ケースの半分だけ敷いて逃げ場を作るのがコツ)、ケース内の空間全体を温室のようにします。湿度も重要なので、濡らしたティッシュをコーナーに置くなどの加湿対策も忘れずに行いましょう。
いつまで保温が必要?
羽が生え揃い、一人で餌を食べられるようになる生後2ヶ月頃までは、過保護な保温を続けます。その後、徐々に温度を下げていき、最初の冬を越すまでは最低でも20℃以上をキープ、本格的な成鳥の耐寒訓練は2年目以降から、というのが安全なステップです。
寝る時の温度と夜間の保温
「昼間は暖かくしているけれど、夜寝る時はどうすればいいの?」という質問をよくいただきます。自然界では夜になれば気温が下がるのが当たり前ですが、飼育下では極端な低下は避けなければなりません。
おやすみカバーの選び方と効果
夜間、ケージを暗くするために掛ける「おやすみカバー」。これには遮光だけでなく、保温という重要な役割があります。ペラペラの布一枚では保温効果は期待できません。冬場は、内側がフリース素材になっているものや、遮光1級の厚手カーテン生地で作られたカバーを選ぶことを強くおすすめします。
さらに保温性を高める裏技として、カバーの上から段ボール箱をすっぽり被せる方法があります。段ボールの空気層は断熱材として非常に優秀で、これだけでケージ内温度が2℃〜3℃変わることもあります。見た目は少し無骨ですが、愛鳥の命には代えられません。
夜間の暖房:つけっぱなし vs タイマー

ここが意見の分かれるところですが、私は「真冬はエアコンつけっぱなし」派です。特に東京などの都市部でも、明け方の冷え込みは氷点下に達することがあります。タイマーで夜中に暖房を切ってしまうと、一番寒い明け方に室温が急降下し、朝起きたら鳥が落鳥していた…という悲しい事故が起こりやすいのです。
もし電気代が気になってエアコンを切る場合は、ケージ用のペットヒーター(少しワット数の高いもの、例えば40W〜60W)をサーモスタット経由で稼働させ、さらにアクリルケースなどで密閉に近い状態を作り、ケージ内部の温度だけは絶対に死守する工夫が必要です。中途半端な対策なら、エアコン代を払う方が病院代よりずっと安く済みます。
夜驚症(オカメパニック)と常夜灯
コザクラインコは比較的少ないですが、夜中に地震や物音に驚いてケージ内で暴れることがあります。真っ暗闇だとパニックが収まりにくいため、豆電球やコンセント式のナイトライトを点けて、うっすら周りが見えるようにしておくのも、夜間の安全管理の一つです。
発情抑制と温度の関係性
コザクラインコは「発情大王」と呼ばれるほど、発情しやすい鳥です。飼い主さんをパートナーと認識して吐き戻しをしたり、紙を細長く切って尾羽に挿す行動(メス)を見せたりします。可愛らしい反面、過度な発情はメスの「卵詰まり(卵秘)」などの命に関わるトラブルを引き起こします。
「暖かすぎる」ことのリスク
野生の鳥にとって、暖かくて餌が豊富な時期は「繁殖期」を意味します。つまり、一年中25℃以上のポカポカな部屋で、高カロリーな餌をお腹いっぱい食べていると、彼らの体内時計は「今は春だ!卵を産まなくちゃ!」と誤作動を起こし続けるのです。
あえて温度を下げるという選択肢
発情が止まらない個体の場合、獣医師の指導のもと、あえて環境温度を少し下げる(例えば20℃前後など、病気にならないギリギリのライン)ことで、「今は繁殖に適した時期ではない」と体に教え込ませる手法をとることがあります。また、日照時間をコントロール(早めに寝かせる)することとセットで行うのが一般的です。
ただし、これは健康な成鳥にのみ許される高等テクニックです。体調が悪い時や換羽(羽の生え変わり)期に温度を下げると、そのまま体調を崩してしまうので、実施する際は愛鳥のコンディションを慎重に見極める必要があります。
コザクラインコの適温維持とケージ選び

温度管理を成功させるためのもう一つの重要なピース、それが「住環境(ケージ)」です。どんなに高性能なヒーターを用意しても、隙間風だらけの家では熱効率が悪く、温度は安定しません。
湿度の管理と乾燥リスク
日本の冬、特に太平洋側の地域では、乾燥が深刻な問題となります。エアコンやヒーターを使用すると、室内の湿度は20%〜30%まで低下することも珍しくありません。
乾燥が招くトラブル
湿度が低いと、コザクラインコの鼻や喉の粘膜が乾燥し、ウイルスや細菌への防御機能が低下します。また、皮膚が乾燥して痒みを感じ、それを気にして羽を抜いてしまう「毛引き症」のきっかけになることもあります。逆に、梅雨時期のような70%を超える高湿度は、餌のカビやダニの発生を招くため、これもまた問題です。
目指すべきは50%〜60%
快適な湿度の目安は50%〜60%です。我が家では、加湿器を必ず併用しています。加湿器を選ぶ際は、熱い蒸気が出る「スチーム式」は火傷のリスクがあるため、ケージの近くに置くなら「気化式」や「超音波式」が安全です(ただし超音波式は雑菌が繁殖しやすいのでこまめな掃除が必要です)。
もし加湿器がない場合は、濡れたバスタオルをケージの近くに干したり、お湯を入れたボウルを置いたりするだけでも、局所的な湿度は上げることができます。温度計だけでなく、湿度計も必ずセットで設置する習慣をつけましょう。
留守番中の安全な温度管理

「急な残業で帰りが遅くなる」「一泊二日の旅行に行きたい」といったシチュエーションは、飼い主なら誰しも経験することです。不在時の温度管理は、トラブルが起きてもすぐに対処できないため、在宅時以上に安全マージンを取る必要があります。
スマートホーム化のススメ
現代の飼い主にとって、最強の武器となるのが「スマートリモコン」と「温湿度計付き見守りカメラ」です。SwitchBotなどの製品を使えば、外出先からスマホで現在の室温を確認し、必要に応じてエアコンの温度を操作したり、ON/OFFを切り替えたりできます。
「今日は予報より暑くなったな」と思った瞬間に、職場のトイレからスマホで冷房を強める。この安心感は一度体験すると手放せません。カメラ越しに愛鳥がリラックスしている姿を確認できれば、仕事中の不安も解消されます。
夏の停電対策は命綱
夏場の留守番中に落雷などで停電し、エアコンが停止してしまったら…。想像するだけで恐ろしい事態です。スマートリモコンでも停電復旧後のエアコン再始動は機種によって難しい場合があります。
私は夏場の長時間外出時には、万が一に備えて、水を入れたペットボトルを凍らせたものを数本用意し、タオルで巻いてケージの上に置いておきます。これだけで数時間は冷気が降り注ぎ、最悪の事態(熱中症死)を免れる時間を稼ぐことができます。
ヒーター効率を高めるケージ

一般的に市販されている鳥かご(ステンレスケージやメッキケージ)は、金網でできているため通気性は抜群ですが、保温性は皆無です。ヒーターの熱は上昇気流となってどんどん上から逃げていき、ケージ内はちっとも温まらない…ということがよく起こります。
熱を逃がさない「囲い」の重要性
ヒーターの効率を上げるには、ケージを物理的に覆うことが最も効果的です。専用の「ビニールカバー(ビニールハウスのようなもの)」を被せるのが手軽な方法です。前面がファスナーで開閉できるタイプなら、世話もしやすく便利です。
ただし、ビニール特有の臭いを嫌がる子もいるので、使用前には数日間天日干しをして臭いを抜いてから使う配慮が必要です。また、密閉しすぎると酸欠になったり湿度が上がりすぎたりするので、必ず換気用の隙間を確保するようにしてください。
保温性に優れたおすすめケージ
もし、これからケージを買い換える予定がある、あるいは今の温度管理に限界を感じているなら、私は声を大にして「アクリルケージ(またはアクリルケース)」の導入をおすすめします。
アクリルケースの圧倒的なメリット
アクリルケースとは、金網のケージを丸ごと収納できる透明な箱のことです。これの保温効果は絶大です。20Wや40Wといった低出力のヒーターでも、ケース内の温度を効率よく上げ、かつ長時間キープしてくれます。電気代の節約にもなりますし、何よりエアコンの設定温度に左右されず、ケージ内だけ別世界の快適空間を作ることができます。
さらに、コザクラインコ特有の「脂粉(白い粉)」の飛散を防いだり、甲高い呼び鳴きの防音効果があったりと、温度管理以外のメリットも大きいです。初期投資として数万円かかることもありますが、愛鳥の健康と飼い主の快適な生活(掃除の手間削減など)を天秤にかければ、決して高い買い物ではありません。オーダーメイドで作ってくれる工房もたくさんありますので、ケージサイズにぴったりのものを探してみてください。
コザクラインコの適温管理の総まとめ

ここまで、コザクラインコの適温管理について、かなりマニアックな部分まで掘り下げてお話ししてきました。情報量が多くて混乱してしまったかもしれないので、最後に重要なポイントを表にまとめておきます。
| ライフステージ | 推奨温度 | 管理のポイントと注意点 |
|---|---|---|
| 雛(ヒナ) 羽が生え揃う前 | 30℃前後 | プラスチックケースで温室状態にする。食滞予防のため温度低下は厳禁。夜間も保温必須。 |
| 成鳥(健康) 1歳〜7歳頃 | 20℃〜25℃ | 基本の適温。発情過多なら少し下げ、換羽期は少し上げるなど柔軟に調整する。 |
| 老鳥・病鳥 7歳以降/闘病中 | 28℃〜30℃ | 免疫力維持のため、雛と同じレベルの保温が必要。「膨羽」が見られたら即座に加温。 |
| 夏季(全年齢) | 28℃以下 (室温) | エアコン設定+1℃を目安に。冷風直撃NG。パンティング(開口呼吸)は危険信号。 |
温度計の数字よりも「愛鳥の姿」を信じて

最後に、一番大切なことをお伝えします。どれだけ高価な温度計を用意しても、どれだけ完璧なマニュアルに従っても、目の前の愛鳥が寒そうに震えていたら、それが「答え」です。
個体差、年齢、その日の気分、換羽の有無…。生き物である以上、昨日までの正解が今日も正解とは限りません。毎朝「おはよう」と声をかける時、彼らの羽の膨らみ具合、足の温かさ、目の輝きをチェックしてあげてください。その小さな変化に気づけるのは、世界中であなただけなのですから。
適切な環境作りは、愛鳥への最高のプレゼントです。この記事が、あなたとコザクラインコのポカポカと温かい幸せな毎日の助けになることを願っています。